Hands up! 2020
20201118〜23/シアター1010
海外向けに配信があるとされていたのですが、なんの音沙汰もなく千穐楽を迎えてしまいました。
※わたしは初日厨で、初日あければネタバレツイートなどは自衛による回避の範囲内である、という主張をもっています。ただ、この舞台だけは、初見で、予習もせず、パンフもひらかず、だれの名前もわからんな、という状態で観ていただきたい気持ちが強すぎるので、もしも配信が実現するのならまだ読まないでほしいかもしれないです、と一応ここに書いておきます。
ネタバレには配慮していませんが、細かくあらすじを追うわけではないため、観ていない人が読んでもわかりづらい文章です。
2016年は、わたしにとって完全に「小劇場というエンタメにずぶりとハマった年」と言えるな、と振り返って改めて思う。
テニミュをはじめとした2.5(という言い方も黎明期であった)を主にみていただけの漫画とスケートのおたくに、この作品とあともうひとつ、初夏に観たふた作品は、エンタメに関する人生観を変えるには十分すぎるほど面白かった。再演が決まったとき、けっこうリアルにまあまあの声量で叫んだのは記憶に新しい。
でも、逆に言うと、小劇場、ひいてはそもそも舞台というコンテンツ自体、テニミュ以外見慣れていなかった経験値での話だから、もしかしなくても思い出補正かも知れない、と開演まで怯えに怯えた。面白い舞台とはなにか、価値観が変わっていてもなんら不思議のないほどの歳月が過ぎている。それでも絶対に初日に観たかった。その後なんの因果か定期的に通う羽目になる新宿村LIVEで見上げ、震えるほど感動したあの2時間半を、誰の感想も見ずにむかえたかった。
シアター1010も、若手俳優のおたくをしていると馴染みのある劇場だと思う。わたしは小劇場がメインエリアになってしまってからとんとご無沙汰になってしまったけれど、それでもいつだかの1年半くらいは定期的に行く劇場だった。だからこそこのコロナ禍にふたたびエスカレーターで延々とマルイを昇り続けることができたのはなんだか感慨深かった。ちなみにセンジュのエレベーターは各駅停車するから、開演5分前着席おたくに乗るという選択肢はない。
村のように近くはなく、それでもあの時胸が高鳴った不思議な左右対象の洋館のセットは、広くなっても健在だった。まだいまでも面白いかわからないけど、開演前から言いようもないほどノスタルジーに苛まれて、音楽のボリュームが上がるのを動悸とともに聴いていた。
観ている間はもちろん夢中だったのだけど、観終わって物販待ちをしながら、ふと当時を思い出した。駆け込みでもう一度、どうにかして友人と観たいと思って楽のチケットを足したこと。なにかを覚えておきたくて、劇中写真のコンプリートセットというものに初めて手を出したこと。キャサリン役だった今出舞さんが踊り場でのチェキ物販に出るのにロビーを通って、カワイ〜!と沸いていたらありがと〜!ってハグされたこと(小劇場女優さん可愛いなは絶対ここからスタートしてると思う)。面白くて面白くて、でもうまく言葉にできなくて歯痒かったこと。
小規模劇場、休憩なし2時間強の舞台群との出会いが、こんなに面白い作品だったこと、楽しかったこと、全部が今につながっていて、やはり観にきてよかったと噛み締めました。
何回も書いていますが、前回は新宿村LIVEだったキャパが今回はシアター1010と、板の奥行きも幅もとっても広くなったけど、無駄なスペースがどこにもなくて、大好きだった小劇場ならではのみっちり詰まった情報量そのままで。
舞台美術の構成と使用に限った話をすると、村でバルコニー演出(かみて見切れにベランダみたいなところがあって、そこに役者がでてきて芝居をする)だったところが、ほぼすべて正面奥2階部分で行われていて見やすかった。バルコニー演出好きだけど席によっては振り向かなきゃいけないから舞台上でできるならそのほうがいいよね。芹沢(演:白柏寿大さん、初演:輝山立さん)が最後にハンズアップするのは、駆け込んできて舞台しもてでした。
広くなった分オープニングのダンスはまた違ったいろんなことができるようになっていて、でも好きなところはそのままで。とにかく狭そうじゃなくなったのが嬉しかった。
まあオープニング序盤で紗幕が降りてきて、恒例のあらすじ謎字幕投影が始まった時はさすがに、出、出〜!久保田演出恒例奴〜〜!と思っちゃったけど。あの人絶対文字投影したがる。
変わったところは他にもあるかもしれないけど、笑っちゃった改変は、俳優だったことがわかるのが起承転結の【転】にあたる芹沢のキャリア。
演者が輝山さん(165cm)から寿大くん(185cm)になったことにより、天才子役としてもてはやされた過去があるとの言及がまるっとなくなっていたこと。普通にCMがバンバン決まっているイケメン俳優になっていた。いくらきやまさんがコツメカワウソに似てるキュートビジュアルだからって面白すぎだろ。
さて、4年半経ってこちらの経験値も上がって観た再演はどうだったかというと、まあ手放しに面白かった!4年半前の自分、熱に浮かされたように急に初日のチケット取って観に行ってくれて本当にありがとう。
オープニング時点で、ああこれが観たかったんだなと思わされた。鳥肌が立って視界が滲んだ。あの日も、オープニングのダンスで、これは絶対面白い、と確信したのを思い出した。
いまでも覚えているほど好きなシーンが、キャス変を経ても変わらず好きなシーンであり続けてくれたのもよかったな。
知ってたのに泣いてしまったのは、記憶を取り戻した直後、医者(演:友常勇気さん)にバスケ選手(演:松本岳さん)が詰め寄るところ。「俺にはこれしかなかったんだよ。たった一つの脚だったんだよ」「恨んでねえよ。恨んでねえから、ひとつ訊かせてくれ」、初演のアプローチとちょっと違って、とにかく可愛めにいじらしくて、そして圧倒的な絶望と切なさと諦念とで、涙が止まりませんでした。表情がほんとうによかった……。故障というものに弱い自覚はあるんだけど、それでもリハビリを続けていた心中が透けて見えるような切々とした語り口が胸に迫り過ぎて。
医者は、自殺、というキーワードに最初に気づく役柄だけど、驚愕と絶望の押し寄せた表情とあしもとのふらつきがすごくよかった。めちゃマイナーな話するけど5幕の「ごめんなさい……ごめんなさい……」を思い出す一瞬の無の表情。あとやっぱり圧倒的セリフ量。滑舌がいいし圧が強いし前半は振り切ってヒールに徹していて、久保田カンパニーによく呼ばれる理由がけっこうわかるんだよね。
当時も今もかっこよかった元ボクサー安里悠児くん(演:谷佳樹さん)は、この人、俳優としてうまくなって、進化して、それでまた進んでいくんだなと思わされました。ビジュアルで言うと、ダイエットで追い込んだばっきばきの腹筋に、年月を重ねて鋭くなった眼差し、あの頃は瞳の色によせてた透ける茶髪が、もうすこし前髪重めの黒髪になったけど、それもかっこよくてよかった。真梨華(本名冴子/演:佐藤日向さん)と向き合うさいごのシーンは、記憶より近くなっていて、でもどうしたってふたりは交わらない人たちで、気持ちを全部押さえ込んだ「さえちゃん」「やっぱり俺のこと恨む?」の表情の柔らかさに全部がこもってて。ただ立ち位置、初演はさえちゃんが一段高い踊り場の方にいて、安里くんが見上げてたんですよね。あの見上げる横顔が好きだったから、それはちょっと寂しかった。
DAICHI役、初演の才川コージさんもムキムキなので強くてアホで可愛かったけど、ダブルの双方とも若くなったので可愛さが上がってて、でも最後生歌になるのは一緒で、とにかくニコニコ見られたお二人。エンディングの生歌ほんとにいいんだよね。初見の人がびっくりしててにやけた。ていうかNAOTO、初演は小劇場のおじさんダブルキャストだったのが急に杉山真宏さんになっててチワワじゃんベース持てる??ってなったしワンチャンフラれないかもって期待してしまったよね。現世戻ってもうひとおし押せばいけそう。
ワンチャンで思い出したけど、マネージャー牧村(演:松村優さん)も若返ったのでいけるかと思いきやこちらはダメそうだった。テニスから連れてくると、テニスで見た時より身長高いし脚長いし顔小さくてびっくりする現象は、店で見た家具が家に持ち帰るとばかデカくてびっくりするのと同じだと思う。
女の子もみんな可愛かったな。てかいにしえのニコ厨(死語)だから幸子ダブルの愛川こずえさんにここで巡り逢うのウケた。
当時好きだった演出に高野ゆり(演:野本ほたるさん)の「ここにいらっしゃる皆さんにだけ、わたしの秘密をお教えしましょう」のシーンがあるんだけど、あの美しいターンがしっかりしていないとあの切り替えはできないから、再演でも観られて最高すぎた。
出演する俳優名だけで役名が発表されてなかった時点ですでに、この人絶対に物部さん(ゴシップカメラマン)!!、とたのしみにしてた冨田翔さんのかごめかごめクライマックスシーン、やっぱりよかった。手で顔を覆いながらぐしゃぐしゃに泣いてて、子供のように丸めて座りこむ身体から絞り出した声に胸打たれすぎて。海辺で話すシーンもよすぎたけど、特にここで客席が一体にならないといけないから、地力を思い知ったような気がして。このひきずりこむ悲痛さが凄まじいほど、よりカタルシスに繋がってるんでしょうね。
当時の自分の感想で覚えているのは「ライアーゲームだと思ったらライアーゲームじゃなかった」なんだけど、メインストーリーとしてはこれに尽きる。ただ、このストーリーそのものがものすごい満足度に直結しているわけではない。もちろん大どんでん返しではありますが、そういう大きな本流とはまた扱いを異にして、大きな伏線から、小さなもしやの違和感まで拾い上げる脚本センス・怒涛の展開を絶対に冗長にしないスピード感の圧倒的演出・演者の説得力、これをなくして語れないだろうな。
脚本があまりにも精緻に組まれていて圧倒されるけど、4年間、クソ虚無から大好きなシリーズものまで観て、この作品は演出の巧さが際立つな、ということに気づく。
劇中にふたつあるゲームの導入も、それぞれ5つずつの試行も、同じようになぞったってつまらなくはないだろうに、二つとも入りが違ったのが今更ながらすごいなと。特にかごめかごめは、入りとゲームの説明、そして1度めの試行がものすごく映像的で、舞台でこんなにも映画やドラマのような時間軸の演出がつけられるのか、と衝撃を受けた。聞いてるか暗転だいすき2.5舞台!(悪口)
いちばん好きだったのは、ラスト、医者が紗幕の前に立ち、神の手復活とばかりに難しい植物状態の患者の手術を宣言するシーン。ここのセリフ単体でもう観客は「もしかして……」と思わされるんだけど、後ろに出てきた白金社長(本名黒金/演:山本侑平さん)との会話でそれが確信に変わったあとの極めつけが凄まじい。
医者が紗幕の手前にいるのはそのままに、裏側で青いピンスポがあたり、ひとり、あまりにも人生が辛すぎるが故にゲームに残っていた幸子(ダブルキャスト)がうっすらとうかびあがる。あの踊り場みたいなセット、好きだったな。「手術の前に、まずこの患者の両手を挙げさせてください」との医者の言葉とシンクロして、紗幕の向こうで幸子がハンズアップする。大きくなる音楽。
あの演出、どうにかして演劇史に残って欲しいほど、それこそ狂おしいほど、泣きたくなるほどに好きだった。鳥肌が治まらなくて、全身で2016年と同じふるえを覚えた。これが感動するってことかって。惰性で生きてるけど、こんな世界になっても、かわらず舞台が好きだとおもった。
初日、まさかのトリプルカーテンコールで、だいぶ経ってから出てきたみなさんに、スタンディングオベーション、満点すぎて手が震えました(ちなみにだけど3列めくらいまでは気付いてなくて座ってらしたのでスタオベ気づかなかった^^;という良席マウントのとりかたもある)(発想が最悪)。
トリプルあるとは……って感じで慌てて出てきたみなさんのびっくり顔が、スタオベを見て破顔していくの、世界一美しい景色で、やっぱり舞台が好きだ、生で観にきてよかった、と心臓がギュッとしてすこしだけ泣いた。
劇場から出たらリピチケが長蛇の列だったのもグッときすぎて。面白かったよね、そうでしょ。2016年のリピチケを買ったような感覚で観にきたからすごくすごくよくわかったし、信じた面白さがきちんと伝播したことを目の当たりにできて、なによりの幸せに思った。
個人的には、戻りたいばかりの2016年だけど、2020年じゃなきゃこんなにこころを締め付けられてないだろうから、再演を拝見できたことをまず喜ぼうと思う。そしてこのご時世に最後まで駆け抜けてくださった演者側の皆さんと、運営の皆さんに感謝して、まだこれから2週間気をつけて生活していきたい。
安里くんたちが選んだ現世を、こういう風に感動できるほどの面白さと新たに出逢えると、わたしもまた信じて生きるしかないのだから。
運営へ:配信あったら買うので今からでも円盤届く前にやってくださると嬉しいです。