スケート靴を脱ぐまえに

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「憶えていますか桶狭間」〜 あおななおたくによるミュージカル信長の野望−炎舞− 歌詞感想

タイトル長っ。はじめに言っておきますが、これは本編の感想ではありません。

まえがきに代えて

#のぶみゅー とはなんだったのか

 ミュージカル信長の野望 -炎舞- とは、2020年1月18日から22日にかけてえらい僻地で上演されていためちゃくちゃ登壇人数の多い公演時間2時間45分の生演奏2.5次元ミュージカルである。……と書くとしぬほどつまらなさそうだけど、事実わたしもゼッタイ虚無ジャーンとなりながら大江戸線に乗っていた。そのはずであった。

 だがしかし、結論から言うとかなり面白かった。めちゃくちゃ面白かった観に行ってよかった大賞2020!!!と言うにはまだ2020年始まったばかりで抵抗があるが、連れは、久しぶりに舞台を手放しで面白いと思った、と呟いていた。

 抜群の期待値の低さが手伝った面は否めないにせよ、生演奏にかなり精神が高揚したにせよ、脚本自体決してつまらないものではなかったのだ。

 舞台は信長幼少期、名古屋城を与えられてから青年期を経て本能寺の変をどう回避するかまでをスピーディーに描く。和楽器とバンドで生演奏される劇伴音楽がとにかく途轍もなく良くって、やっぱり印南さんって天才なんだよね。サントラ欲しい人、5億人いたと思う。

 幼少期からなぜか幼馴染のように蘭丸(演:田野優花さん)や秀吉(ダブルキャスト)がいたり、寧々が存在まるごと消し飛んだり、アクロバティックな「もしも」でこれがif世界だと見せつけつつも第1幕はおおむねただの「信長史」で油断させる構成がずるいな、というのは観終わってからようやく湧いた感想だった。

 第2幕、客席から突如現れる現代時空の登場人物が「先輩、明智光秀って何で裏切ったんですかね」「明智を解雇することは理由があってできないが、信長暗殺を阻止したい」とスマートフォン越しに誰かに頼られるところでやっと、そうだこれはゲーム信長の野望の実写舞台だった、と思い出す。そこからは正史と歴史的乖離とをうまく掛け合わせながらラストへ怒涛の展開で持っていかれて、薄々察していたところの裏付けが取れたりと、悔しくも面白かった。田野ちゃんってすごい。歴史的事実だから知っていることの方が多いのに、圧倒的にうまい歌でぶん殴られるように泣いたりした。

 ゲーム未プレイかつ舞台信長の野望を観ていないため、プレイヤーの干渉による正史との差異がどの程度まで許されてしかるべきかはこの際論じられないけれど、語り尽くされた「信長」史を上手くフィクションとして再構築していたように思う。直前まで公式ホームページのキャスト欄が大半空欄だったり謎の小劇場身内ノリがはびこっていたのは一体何だったんだ。明智光秀役鷲尾修斗さんの全おたくどう考えても観ておいたほうがよかったのに、あの地雷臭で敬遠した人、絶対いたよ。わたしは鷲尾さんのおたくであったことは一度もないのですが、それでも少なからず感動したもの。あと主演である圧倒的顔が良すぎる信長こと徳山秀典さんのおたく、再演だからこれが面白いことを知ってたの羨ましすぎる。

 とまあいちおたくによるただの愚痴交じりの評価はさておくとして、なぜ公演も終わったのにこんな文章を書いているのかと言うと、歌詞があまりにもテニミュ生まれネルケ育ちのわたしに刺さりすぎたからです。

 

本題 〜 個人的にテニミュ文脈を感じたところ

 今作品、正直なところ、予想よりだいぶ歌ってくれた、という印象が強い。嬉しかったですね。しかもソロパートのあるキャスト大多数がめっっちゃくちゃうまいパワーワードに次ぐパワーワード、そして生演奏!

第一幕

 開幕M01『尾張国は信長幼少期に織田家に仕える平手政秀が現状を歌い聞かせてくれる曲。第一声からあまりにも圧倒的すぎて初見では冒頭の中身が入ってこなかったのは内緒です。

尾張国 織田の領地

周りは猛者が揃っています

 ここからもう良すぎる。歌が第一声からうまいというのはかくも板の上の世界への没入を助けるのか、と思いましたね。戦国版ブランニュー青学2012論。

成り上がった斎藤家

斎藤道三が下克上

海道一の弓取り 今川義元

幕府を担う朝倉家

六角の支配を嫌う 浅井久政

 尾張を囲む列強を軽やかに羅列し、歌い上げてるけど、この時点で実は父親の信秀、攻め込まれていて命の危機だったりする。そりゃ戦国だから一事が万事といえど、あまりにもフラット。いいけど。

 で、これは完全に『これが青学レギュラー陣なのだ!』、『全国大会準々決勝だ!』に通ずる現状解説導入ソングじゃないかな、と思うんですね。平手殿が歌ったあとに決めセリフみたいなの言ってくれるしメロディーがポップなので『RUNRUNRUN』とかの趣もある。

 そういえば、「我が息子を、この近江を統治する若武者に育てよう!」と宣言する浅井久政、のちのシーンで長政役をやる人が出てくるから、顔だけ暗くなるように照らされた凝った照明に感動しました。どこから観てもお顔が見えなかったな……。

今戦う男たちは 国のために死ぬ

国とは人 国とは領主

国とは 未来のあなた

 エッ……オールフォー!オールフォーテニス!!じゃん……テニスが俺、俺がテニス……テニスは俺らの全てじゃないか…………。

 まあどちらかというとテニス部員の皆さんがテニスに熱い命を委ねすぎですが、親和性がめちゃくちゃ高いんですよね。お家の命運はかかってないけど、チームの優勝がかかってる。

右腕 左腕 それから天運

限りのあるこの命

 こちら、もはやラッキー千石。実力だけじゃダメなんだよね。

 あとこれは歌詞ではないのですが、このあと抜群にうまい吉法師のソロに入り、ラストの歌詞

わしの野望

で逆光のめちゃくちゃ強いライトが当たってる間に青年期信長である徳山さんとチェンジするのがTHE TOPの入りを彷彿とさせました。徳山さんあまりにも顔が綺麗すぎて登場毎回びびるんだわ。

 

 M03『信長の決意』(たぶん)、

ここからはじまるこの道を

一度は外れた正しき道を 我は歩く

彼の見た頂へ いざ黄金の時間へ

舞台にいる全員の重厚なハーモニーもさることながら、黄金色の照明が明るく明るく信長に集まって行くのが完全に天衣無縫で良すぎました。

 

 初見で一番「待って?テニミュでは?」と思ったのは、実は少し飛ばして一幕後半のM06『男』でした。これ演者の皆さんにずっとM男って呼ばれてたらしいのウケる

 西美濃三人衆というお隣美濃国の強い人スリートップがいるんですが、美濃侵攻の際にその中の1人が乗り込んできて柴田勝家と一騎打ちになり、隙をついて信長を殺そうとしたところを明智光秀が防いで殺しかけるんですね。主君の命を狙った不届き者なので完全に正しいはずの光秀に、信長は「ああいった男を守備に据えれば強靭な国が作れる(意訳)」「殺すのは簡単だが、強い男というものは血反吐を吐いても簡単には育たん」と戒めて、部下に手当を命じる。

 そこから歌い出す曲です。それにしても説明が下手ですね。

聞いたか あれが武家の男か

未来の眼を持つ天才だ

時代を変える男の言葉

ええーーーーーこんなん完全に勇気VS意地か新あいつこそが略かおまプリかって世界になってくるじゃんね。

戦国の世に咲く一輪の清い花

なんと崇高なのだろう

どっちかっていうとこの褒め称え方は氷帝立海では、と友達に言われて気づいたけど、信長を自分の推し校のエースにしがちみたいです。連れは仁王くんのおたくなので「立海ぽい」と言っていました。おたく、盲目。

 この作品、私の記憶の限りでは花として評されたの信長とお市の方しかいなかったと思うんですけど、織田DNA、いったいどうなっているんでしょうか。

 余談ですが

裏切る理由はない 信長を

このまま仕えよう

私が見たいのは真実

で締められたため、ゲーム版だし裏切らないエンドあるか!?と思ったのに普通に黒幕と化し、明智くんが一級フラグ建築士となってしまったので2回目からややウケました。あとここの照明が青と赤で上手下手がくっきり分かれてたの好きだったな……。

 

進め進め進め 歩みを止めるな蹂躙しろ

尾張の大うつけ 信長様だ

本当に切れ者 戦の神だ

から始まるM07『桶狭間は確かに氷帝立海っぽいんですよね。冷静に考えると、蹂躙って言葉出されて「ぽい」とされる中学校嫌すぎるけど……どっちかというと一度負けて失うもののない全国大会の両校が突き進む、あの雰囲気があるのかな。

雨よ降れ 雷よ鳴れ

天下人の勝利を祝え

風林火陰山雷!!!

 

 第一幕ラストにあたる上洛完了は第二幕最後に触れますので割愛。

 

第二幕

 M10『戦国女のタンゴ』、だんだんタイブレークとかシンクロに聞こえてきてなるほどな……となっていたのがこの辺り。

見てよあの顔 青ざめて

今にも死にそう部屋の中

抜き足 差し足 忍び足

武家の女の最期が迫る

 夫である浅井の寝返りがあり、兄の信長側に逃げるか伝えるかする策をなんとか講じようとするお市の方と三姉妹に対して、浅井側の侍女たちが畳み掛けるように歌うんですけど、それを見ている立海レギュラー!?哀れな様子だぜ……!?とも思ってました。

 

さよなら優しいあなた

さよなら愛しい君

 わたしが最後ールデン(©︎ 矢田悠祐さん)……!とトチ狂っていた物理的別れのデュエットM11『恋慕』ですが、この「さよなら」の畳み掛けは8代目卒業バラード『未来へ』にも似てる気がしてきました。ラストの方で「さよなら優しいあなた「愛しい君」と呼応する歌い方になるのもよかったな。

深い 深い 悲しみを越えて

違う時代に 世界に 出逢えたら

君を待つ あなたを想う

最期の誓い

 この公演、メイン四人以外が全員ダブルキャストでアンサンブル含めるとカンパニー80人超えるという謎システムだったのですが、浅井夫婦もAとBで歌い方と立ち位置と解釈が違って最高でした。

 ずっと向き合って歌うBと、最後になるまで背中合わせのA、とか見てると黄金の代替わり思い出してしまう。個人的に総合優勝は歌唱力でぶん殴ってきてくださったとにかく歌の上手すぎるB浅井夫婦だったのですが、Aが「さよなら優しいあなた」「さよなら愛しい君」の「君」でやっと目が合うという動きをつけてたのも捨てがたいな……まあ決める必要そのものが別にないんだけど。

雪のような白い肌に

氷の心を持って

貴女はこの城に来ました

 追記:この冒頭、「この城に」ってところで爆烈に泣けてしまいました。いつか自分に嫁ぎにこの城に来て、そしていまこの城を出て行く最愛の人…………B浅井長政のGOHさんの圧倒的歌唱力で千秋楽まで泣いてたの、完全に歌がうまいってすごい案件。

 

おぼえていますか 桶狭間

 M13『雲外蒼天』(たぶん)、ブログタイトルにもしたんだけど、蘭丸役田野ちゃんの、この入りがほんっっとうによくて、一番好きでした。ビブラートがさほどかかっているわけじゃないんですが、もうとにかく伸びる美しい声と聞き取りやすい滑舌と小さな体から放たれる圧倒的声量!どの席にいても心をえぐられるほど胸にまっすぐまっすぐ届くお声が嫌味なくうまくって凄かった。

 歌われるのは長篠前夜、目標であり倒したい敵でもあった武田信玄の訃報と最期の言葉に少し揺らいだ信長が、蘭丸に息子を呼んで来させようとするシーン。「お前わしが死んだらどうする」「信忠様にお仕えいたします」「建前の話をしているのではない」「……信長様にお仕えする日に戻ります。天下統一まで、あと少しです!」「そうかもしれんな」という会話から入るんだけど、どでかいネタバレをするとこの蘭丸くんが実はプレイヤーなんですよね。必死に必死に歴史を少しずつ変えて、ゲーム時空で信長が殺されない未来を目指している蘭丸くんの言葉だと思うと劇的に重くてエモーショナル。

 これまでの試合……じゃなくて戦いをなぞって思い返していく構成なんですけど、全立S2『君はまるで手塚国光の導入や、みんな大好きSeason(「なあ覚えてるか?」・「ねえ覚えてる?」)笑顔見せようのAメロなどを彷彿とさせて大好き。ていうか不二くんのあの曲こんなタイトルなんですね。

おぼえていますか 桶狭間

天下の今川 奇襲で獲った

これに対して、舞台セットの2階部分から見下ろしてこたえる信長様。

おぼえておるとも 桶狭間

 扇子を差し出して頷きながら柔らかく歌う表情があまりにも素敵で泣きそうでした。コンテナの上かと思ったもんね(隙有黄金語奴)比叡山延暦寺のエピソードを歌いながら信長様が2階セットから降りてきて、そこでのぶらんのデュエットになるんだけど、全然声質のちがうおふたりが千秋楽に最高潮のハーモニーを奏でてて鳥肌が立ちました。

幾度 戦場 駆け抜けて

天下のいただき まだ見えぬ

道の途中で恐れをなせば

ゆくも戻るも 地獄なり

どうせ同じ地獄なら

摂理に逆らい いざゆかん

いざ 明日の勝利へ

 これ、信長の前に蘭丸ちゃんが膝立ちをして戦闘態勢になるの激アツだったな……。どうなろうとも盾でい続ける覚悟と信頼と忠誠。地獄までお供しましょう感。戦国版オーストラリアンフォーメーション。そういえばプレイヤーが死んだらどうなるんだろう、このゲーム……

 今気づいたけど蘭丸役田野ちゃんって田野丸って呼べますね!(はい)

 

 M14『長篠の戦いはラスサビ前に織田軍武田軍が上手下手に分かれて、舞台の真ん中で信長と勝頼が右腕左腕を差し出して対峙する、その構図がまさに見たことあるやつでとにかくテンションが上がりました。行くぜだ!幕切りだ!頂上対決だ!!もちろんかみてが青い照明の織田軍、しもてが赤い照明の武田軍。

 このあとあの火縄銃の兵法で圧勝しますが、爆竹か何かで火薬の匂いを客席に広げる演出があってすごかった。後方席まで届いてたっぽいから、そういう装置があったのかな。

 

 M15『本能寺』でも、歌詞がどうこうというよりは殺陣をしながら歌うのでテニスじゃんとなった演出がありました。歌詞が聞き取りやすい人と、そうでない人もいて、でもまあここは臨場感としてアリだったようにも思います。

貴方の創った この国が見たい

 前後しましたが、光秀が裏切って、潔く腹を切ろうとする信長にまだ少し待って欲しいと語りかける蘭丸ちゃんのこの曲は完全に思い出せ越前。見えない心の暗闇をあなたの打球が切り裂くんだよ。ここまで書いたところでむしろトリオパートなのでは?となっていますが……「お前はおれたちの希望の星なんだよ」……

 ちなみにですが本能寺、蘭丸くんの綿密な計画により少しずつすこしずつ狂った歯車が、とうとう信長暗殺を阻止します。「策はあるのか」に「はい!」と返された時のびっくりした信長様の表情が本当に印象に残ってる。ここの歌も良かった。

秀吉様には伝令を

歴史より早くここにたどり着く

勝長様と信忠様を

ここに招いておきました

 メインのターニングポイントは柴田勝家が来たこと、だったのですが、勝家が強すぎるので参戦しちゃっただけで光秀竹千代毛利が全軍退避させたのがやや面白ポイントでした。1人だけ飛び抜けておじさんなはずなんだけど……まあ鬼だからいっか。

 そういえばこのシーンで「お前が全てやったのか」と詰め寄る明智光秀の言い方にめちゃくちゃ引っかかったのですが、彼もまた現代の誰かが参戦した姿だったりしたのでしょうか。知らないはずの歴史を語ったり、蘭丸くんの解説にも付いていけてたので。思い過ごしかな。

 

 さて、静かに暗い紗幕の向こうの人々が歌い出して、物語は終焉を迎えます。

我ら 音に聞こえた 織田のつはもの

 M16『上洛完了reprise』、この曲はさきほどすっ飛ばした第一幕締めの曲『上洛完了』のエンディングバージョンです。ラストにもう一度気持ちが盛り上がる曲が聴ける、そう、これぞテニミュのフィナーレメドレー。

 公演として、最後もう一度平手政秀が出てきて回想シーンをやってくれるのでどうしても気持ちがしんみりするのですが、そこでこの上洛完了が始まるの、凄まじくピースフルな構成でコメントに困った。

 「reprise」は反復という意味を持ちますが、入りがローテンポでかなり雰囲気が違うのと、第一幕終わりでは無事だったもう死んだ人、裏切った人、追放された人も、「反復」なので全員そのまま変わらずにいてくれるのが静かに胸に迫ってきて泣けて泣けて仕方なかったです。信長が人生を思い返したときに浮かぶ光景がこれなのだとしたらめちゃくちゃエモい。全国氷帝S1で先輩一人一人から得たものを思い返しながら満身創痍の越前リョーマくんが立ち上がるところに似た「この人はこの場所とこの人たちのことを思いのほか愛していたのだなあ」感。

終わらぬ戦国を 終わらぬ歴史を

終わらせに来たのだ

ここがすごく好きでした。そういう時代だから、命の重みがどうとかは別に論じないんだけど、そこがよかった。

 この曲には敦盛が引用されてて、それは有名な一節だけじゃなくて「一度生を得て 滅せぬもののあるべきか」までなんですけど、夢幻のごとくなりに留まると伝わらないものもあるんだなあ、大事だなと思えてよかった。

 最後アウトロで全員扇子を持って舞うのも、「勝負だ!」でラケットを受け取ってからのフィナーレがオーバーラップして心震えました。みんなまっすぐ未来だけ見てて、ひとりひとりが美しかった。一回鷲尾くんが扇子忘れてた公演があったところまで完全にテニミュ文脈!!!!!

 

おわりに

この文章は、あくまで個人の一時的かつ一方的なまとまりきらない感想であり、脚本・演出がテニミュ意識してる!世田谷区は僻地!などの主張をするものでは一切ありません。また、なにかを貶める意図もございません。

気になる歌詞の間違いがありましたらお知らせください。

読んでくださった方がいらっしゃいましたら、無駄な時間を過ごさせてしまいすみませんでした。もし万が一にも円盤の通販が決定したらリンクを貼っておこうと思います。