スケート靴を脱ぐまえに

舞台・スケート・他 備忘録ポエム >₍ᐢ. ̫ .ᐢ₎

2020年上半期現場おぼえがき

  2020年。イギリスはEUを離脱、全世界で疫病が流行り、オリンピックは延期、いよいよ上半期を切り上げたと思えば香港は闇にのまれ、もう下半期もちゃくちゃくと1/3が終わろうとしている。

  当たり前だけど気の滅入ることばかりで、直視する現実は例年とは比にならない息苦しさを突きつけてくるけど、それでもやっぱり現場は楽しかった。世界が変わる前も、変わってしまった後も、現場で吸う空気がいちばん好きだったから、せめて文章にして覚えておければなと思って、一度断念した備忘録をつけています。

  上半期と銘打っていますが個人的に区切りがいいので8月序盤の舞台まで入れました。なんでもありかよ。そうだね。

  あと色々あって3月はとばしています。

  例によってイベント系は省いています。

 

1月

 

舞台 宇宙戦艦ティラミスII 〜蟹・自分でむけますか〜

品川プリンス・クラブeX

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  これがこのブログのサムネイルになることに気づき、微妙な抵抗感すらありますが、年始一発めの舞台は全然行く予定のなかったこちらでした。

  この舞台、実は昨年の12月末に大阪公演からスタートしていて、そして今こんな感じになっていて忘れていたけど昨年末って意外とワカハイのみなさんが次々インフルエンザに罹患していらっしゃったんですよね。東京公演直前、まさかの佐藤信長くんがインフルエンザということで、同じ事務所で同じアーティスト活動グループで覚えがよくてそつのないイメージのある堀田くんに代役として白羽の矢が立ち、なんとリハ日に合流という稽古期間2日での東京公演開演。メサイアもびっくり(センシティブ)。

  初日、ゲネ直前くらいの時間に公式からアナウンスがあって、まじか〜!?って大きめの声出しながら譲渡探したのが懐かしいな。推してるわけじゃないんですが、今のところ生まれ変わったら推したい俳優さんナンバーワンなので。結局休みとしごおわダッシュとで堀田くんの出演された公演を出来る限り観に行きました。全然何事もなく、いちどすこし詰まっただけで終えられた初日のご挨拶はグッときすぎて涙が出てしまった。本当にすごい人だと思います。

  舞台は、第一弾の方が虚無×サンモールの椅子という地獄のハーモニーだったのに比べてだいぶ楽しめました。虚無だと身構えて行ったからなのか、脚本演出が反省したのか(絶対にないな)、高本学さんが磯貝龍乎さんからの無茶振りにヤバいテンションのままどんなに滑っても自信満々に対処できるようになったからなのかわかりませんが、タイトルからしマクロスパロだろと思っていたらずっとヒプノシスマイク-シナガワディビジョン-していた。ステラボールの隣の劇場で「ステラボールで先月見たよな燃えるような夕日染まった空」とかいうリリックやばいでしょ。大阪もこれだったのかな。生協の人というクソみたいな役名から中ボスにまでなる三浦海里さんが1人だけ飛び抜けてラップがうまくて、主人公たち5人VS海里くん1人のライムバトルシーン(妄言じゃない)、まあそのくらいの人数差つけないと勝てないよね……という気持ちにさせられましたね。

  上田悠介さんと正木航平さんの安定感がよかった。やばすぎる舞台なのであのくらいに構えててくれる場慣れした人が必要。磯貝さんは場慣れはしてるけどただのセルフ台風なのでカウントできません。上田くん、わりと序盤から高本くんの日替わりが伸びに伸びるせいで腕時計持ち込んでてやばかった。

  脚本演出の最大の悪ふざけは「普通の舞台したいよ 会話劇がしたいよ 歌練習いやだよ ダンス練習きついよ」などとやばすぎる曲を歌わせていたところですかね。おたくが賛否両論蹇々諤々でした。

  あと一生舞台文豪とアルケミストに媚びてた。まあスタッフ被ってるからなとは思いつつ、怒ってた文アルステのおたくは正しいです。

  年始をテンション高くぶち上げられた気がするので個人的には大変満足でした。主演が千秋楽にしてガチ最寄駅をバラされていて2020年一番倫理観のない舞台が早くも決まってしまった……と思っていたのですがコロナでそうでもなくなりました。

 

生演奏ミュージカル 信長の野望 -炎舞-

光が丘IMAホール

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このメンツめちゃくちゃB班。別にいいんでしょうか。

  だいたいここに書いてあることで相違ありません。ここに書いてないことで言うと、バウを兼ねたエンディングの演出がもうたまらなくよかった。普通にポップな和装曲が生演奏で流れ、手拍子の中アンサンブルから番手逆順に出てくるのは普通の流れだったんだけど、信長以外の織田家三名と三成あたりが揃った途端、浮かれた音楽がピタッと止む。明るかった照明がばつんと暗くなって、一瞬でスポットライトに浮き上がった帰蝶が、息子が自分を庇って死んでいった戦いをもう一度なぞりながら最後の謎解きをするんですね。明智光秀の背後に誰がいたのかを告発する。ある種ボーナストラックの様相で、でも決して流れを断ち切ってるわけじゃなく、痛快でした。あれはすごい。もう一回見たくなる。

  多分この舞台、竹千代が徳川家康の幼名だと知らない方が絶対面白いので、戦国時代に明るくないと時代劇は楽しめない時代はとうの昔に過ぎ去ったんだろうな。

 

タイムトラブルバルコニー

シアターサンモール

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  推しが出ていた身内から招待と言っていただいてたけど確か普通に支払いました。支払ったはず。なぜならめちゃくちゃ面白かったから。

  悪名高いシアターサンモールで腰がギリ許せるのがこのくらいの公演時間ですね。すごく作り込まれた舞台美術と綿密な演出で細やかな会話劇がわりと伏線もパニックもありつつストレスなく頭に入って残る。

  主演はテニス以来な気がする久々の永田せ〜ちゃんさんでした。2020年を生きる気が弱くてかわいい大学生、あまりにも等身大でちょっと怖いくらい憑依型なんだなって思った。

  巧い人が揃えられてるなーという印象のキャスティングだったけど、最近の人気とかで選ばれたのかな感のあった校條拳太朗さんが浮いてる様子もなく総合して質が良かった。全員さすがの安定感だったけど、反橋さんはいつ見ても歳を疑うくらいこなれてる。あと空夢くんは相変わらずかっこいいですね。

  ネタバレとしては、8部屋あるベランダが全て5年ごと違う年につながっていて、毎週日曜日の決まった時間だけみんなで話ができるんだけど、ある日その時間のズレと、それからやや経って未来で主人公が死ぬことがわかってしまう。この時間を使って未来変えてみようぜってやっていただけなのに、自分たちのせいで声しか知らない隣人が死ぬことになってしまったから、ねじ曲げた過去をもう一度ねじ曲げてでも未来をまた変えようとする話でした。

  正直、部屋ごとに違う時間軸なのは序盤で観客の方が気づけてしまうけど、そのあとじゃあどうやって主人公たちが気づくのか?おこるトラブルをどう回避するのか?終着点をどこに持っていくのか?ずっと考えさせてもらえて本当に毎秒面白かったです。

  過去からなにか仕掛けるんじゃもう意味がないと踏んで、結局2020年に向けて物理的に事件を阻止し2030年にみんなで集まるラスト、頑なだったそらむくんへのサプライズ、最後までスッキリ気持ちよく楽しくて感動しました。

  もう誰か早くトライフル辻からTwitterを取り上げろ。

 

2月

 

パンダドラゴン 2nd単独ツアーファイナル

新宿blaze

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  こんなに最近だったっけ!?インディーズアイドルのみなさん、仕事や配信や企画が毎日毎週あって過ぎ去る月日の密度がえげつない。

  1万5千字超えてるので、興味のある人にしか向かないタイプの文章です。

 

まんま、見ぃや!

シアターモリエール

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  相変わらず気が狂っている江戸川脚本。脚本演出にあまり不安がないので、わりと好きな女優さんの扱いにして無理やり時間を開けて駆け込んだらバレンタインデーでした。人生。

  カラスカという劇団さんの成り立ちを完全にでたらめで大正〜昭和あたりをモチーフに語るノンストップコメディ、衣装が謎に豪華で、最後にドレスと洋装で全員で歌って踊ってこれがエンターテイメントだ!!!!!って感じで、最高でした。高尚なものをやらなくても伝わるものがあるというプライドも透けて見えて。なんかネイティブアメリカンみたいなのが急に出てきてから笑いが止まらなかったな……

  ここからは個人的な話なんですが、この脚本家の人とこの団体をどうして信頼しているのかというと、倫理観と価値観をアップデートしていってくれてるからなんですよね。

  小劇場、やっぱりまだまだおじさんたちの人生をかけた娯楽ってところが拭えなくて、やっぱ別に何か特別こだわりがあるわけじゃなくても、わたしの世代が普通に見るとジェンダー観とか下ネタにちくちくひっかかる。同じ脚本劇団の『レンアイドッグス』という作品は、主人公の(長く付き合っていて結婚も目前かと思われた)彼氏が実はゲイだったってところから始まるんですが、そこかしこに同性愛者を笑う文脈でギャグが織り込まれていてしんどかった。ただ笑うだけじゃなくて、男友達が近づいたら飛び退いて避けるとか、うつるとか。脚本自体は綿密に練られていて面白いんだけど本当にそこがしんどすぎて、しかもこれが再再演くらいで、いやもう2018だったかな?だぞとなってアンケートにもめちゃくちゃ書いて。

  2019年に見た違う作品に、キャラA(男)に命を助けられて好きになってしまい、元にはもう戻れない秘伝の忍術を使って女性になるキャラB、というのが出てきてびっくりした。そのうえ、メインキャラクターはBの妹だったんですが、目の前にいる女の子が自分の兄と知って、その意図も知って、笑いもドン引きもしてなかったんですよ。そこにめちゃくちゃ嬉しくなってしまって。男のままじゃなかったのはAがヘテロと分かっていたからだと思うし、1年でこんな速攻アップデートするんだ、価値観!って思えた。

  そしたら今回、別に助けられたとかそういうのなんの理由もなく普通に女の子が好きな女の子が出てきたんですよね。しかもメインキャラだしその恋は実りそうなラストだったし。いやまあ、十分じゃないと言われればそうかもしれない、全編引っかかるところがもういっこもないとは言えない。でも、面白いものをこれだけのペースで書き続けられる人って自分の価値観もこれだけアップデートできるんだなって思えて感動しました。

  江戸川さんご自身は、客演を絶対に滑らせるとかたく誓うやばいおじさんですが、文章を書く人として信頼度が半端じゃないなと思います。

  あとこの作品、前半顔の綺麗な退役軍人さんとして出てくる人が後半ガチ女装をして出てくるのですごいでかいドレスの美人がほぼ常に舞台上にいて視覚的に楽しすぎました。お名前も役名もど忘れして物販行ってアワアワ説明したらスタッフのお姉さんが「ああ!麗しの!」ってブロマイド抜いてくれて面白かった。

  2020年不本意な形でその名を有名にしてしまったモリエールですが、個人的にはそこそこ劇団としての人気がある団体が借りられる劇場として結構周知されてるイメージだったので、劇場さんのあのご対応で今後の経営はもちろん、劇団さんたちがわりと心配です。

 

舞台 イケメン源氏伝 あやかし恋えにし 〜義経ノ章〜

三越劇場

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 ヒロインをずっと定本さんちのふまきゅんだと思っていた。

  金のかかった虚無、久々に観たいよね!?と友人と意気投合し、ちょうど役者さんたちがだいたい見たことあるメンバーだったので入りました。

  チケ代だいたい1万くらいの乙女ゲー原作2.5ってなぜこうも麻薬のようにゆるやかな虚無を産むのでしょうね。演者さんたちに不足はないし、衣装も舞台もそこそこお金が投じられてることはわかるし、なにより箱が三越。でも途中で「なにを観にきたんだっけ?」とぼんやり思う。

  ただしぬほどつまんないかというとそうではなくて、着地点どうすんの?というところとメイン攻略キャラっぽい義経の情緒不安定さにハラハラさせられ、最後まで見ることができました。

 頼朝役で終始きりりと低めの声を出してた伊阪達也さんがお見送りで「あ〜!♡」とか「じゃあね〜!♡」とか言ってるの可愛すぎて脳溶けた。顔が綺麗なゆるキャラなんですよね。

  硬めのプリンは虚無を吸って美味しくなるのでソワレはやめてプリンを食べに行きました。カフェ巡りとか趣味にしようかな。

 

舞台 King of Prism -Shiny Rose Stars-

Tokyo Dome City Hall

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  原作おたくのみなさんの熱量に終始「オ、オォ……」となってはおりましたが、まあなんか観客全員がセリフを言うタイミングで出遅れとかがあまりないのはいいことだろうな。合唱コンクールと同じで、出だしの音量があるのはだいじ。

  逆に演出はもうちょっと凝ってほしい。TDCHでやる意味ある?!?と言うくらい背景の謎エフェクトに頼りっぱなしだった。3バルでその背景映像がちゃんと見えると思っていたのかはかなり疑問。3バルに入った記憶じたいがもう6年前とかなのでわかりませんが。舞台戦刻ナイトブラッドの「その夜」じゃないんだよ。

  わりかし人気のある若手俳優揃いだけど、個人的にはいつもは好きになるタイプのキャラじゃないはずの香加美タイガさんが、演者の長江さんの力量をもってすごく愛せるキャラクターになっていました。あと、あんなにお顔が赤ちゃんなのに、あの、前太腿が、たくましくて、えぐい。

  星元さんのキャラクターが訴求力があってめちゃくちゃよかったな。「私は誓う!」のところが誰より響いて。でもかわいくなったはずなのになぞ衣装にチェンジするの納得いってない。

  大人気の、もといすごく話題だったふんどしの入浴シーンですが、目新しいというよりかはどちらかというといにしえの舞台地球防衛部LOVEを思い起こさせました。定期的に流行る演出と見た。

  横田くんのおたくが連れてきてくれたんですが、なんか彼すごく謙遜しがちなキャラだけど実際見るとそんなに卑下することないよなあって思わされます。曲の音域が蒼井翔太さんなので、かなり成人男性にはキツかったと思うけど、聴いていてしんどくなる下手さとかはなかったな。このご時世にキンプリのおたくが身近におらず、履修ゼロで見たんですが、ルヰくんという割と特殊なメンタリティを、初見のわたしのようなおたくにも伝わるよう演じておられたと思います。

  公演期間の途中でとつぜん打ち切られるの、自分がおたくだったら残りの手持ちチケ見て病んでしまうだろうな……と思いつつも、千秋楽までネタバレしないでくださいとかいう無茶なキレを見かけていたのであの無茶な人間元気か?とはなりました

  

Asterism vol,6 DOUBT

TACCS1179

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  思い出の劇場って、ずっと特別な場所だな、と思いながらコロナでの大幅自粛直前に通いました。千穐楽までたどり着いてくださったことに感謝しかない。

  このブログで感想を書くこと自体は初ですが、Asterism自体はvol,3から生で見ていてその脚本がとても好きだったのと、それがこの狭い狭い箱だったのとではじまるまえから二重に胸がいっぱいでした。

  公演時間が1時間とかなり短く、ダントツの年長者ですら35歳という若いカンパニーで、出演するのもカンパニーというより座組と呼んだ方がしっくりくるようなわずか7人、といういつものAsterismの構成は今後も見続けたい長所だと思う。

  同じ劇団さんが1年半に1度くらいを目処に打つ大きな事務所本公演も好きだけど、そちらがかなりエンタメ性とメッセージ性を強く持つのに対し、こちらのシリーズは(言い方が悪いのは百も承知で)脚本の方の趣味に全乗っかりした、哲学系会話群像劇。なんかよく人が死ぬし登場人物全員AIだったり将来に絶望して仲良しグループの希望の光と無理心中しようとしたりしてる。重いんだけど、小劇場あるあるの脚本家が気持ちよくなるためだけの無駄シーンや、風呂敷をたたみきれず尻裂トンボなだけなのに「客に考えさせるラスト」とか言い出す展開が絶対ないから信用しています。

  おそらく脚本の木村さんがお好きなんだろうけど、よく哲学者の言葉を引用するのも大きな特徴の一つで、今回はぜんぜん触れたことのないエピクテトスを主に引いていて面白かったな。イデア論とか洞窟の時もありました。木村さんご自身がたくさんのことを吸収し考えアウトプットできるタイプなんだろうなって毎回感心できる。

  で、今回ですが、クローン技術が発達しすぎて法的にクローン生成が禁止された近未来、秘密裏につくられた要職やセレブのクローンたちが生活している極秘施設を舞台に物語が始まり、施設を出て外の世界が見たい主人公リツカを中心としてものがたりが展開しました。

  クローンたちにとって外に出るということは、「一時的に危険が伴う場で本体の身代わりになること・本体が不慮に失われた場合本体に成り代わること」以外の意味を持たないため、生まれてから一度も建物を出ていないリツカの渇望はかなり否定気味に描かれるし、幼児退行というパーソナリティも伴って直視が辛いキャラになりがちなところを、最後一瞬だけ理知的な年相応さに戻す脚本と鷲尾さんのバランス感覚が凄まじかった。「カルナ、ごめんな」の表情忘れたくなさすぎて。

  GEKIIKEさん準レギュラー化している堀田くん、またもや全然違う毛色の役で、すごく信頼されてるんだなあと。ヤマトくんはわりとまっすぐ直情型で自分のなかの正しさというものを大事にしているキャラ。一番最初にクローンの部屋を出て行ってしまう人で、ニコイチだったイクミの訃報を“本体”としてひとり外界でニュースから知ったであろうときの気持ちを思うとその心痛いかばかりかと苦しくなります。

  そのイクミくんに抜擢された須永風汰さん、外見年齢がえぐい若さで困った。シビアなくらい冷静なのに、飄々と穏やかに嘘をついて、外に出たヤマトの後を追ってしまうアンバランスさが甘めのビジュアルにマッチしすぎてて100万点。劇中ではかなりの距離を歩いて国会議事堂方面に向かい、ヤマトに会いに行こうとしたところで(本体の方を狙った人間により)暗殺されたと語られるけど、これはフェイクに近くて、おそらく本体を殺して自分もヤマトのように成り代わりで外に出ようとしたんですよね。

  この作品で一番印象づけられてる、

「大人になってからのさよならは、永遠に会えないような気がする。…そんなことはないんだけど」

「そのうち、とまたいつか、は実現しないんだよ」

「いいんだ。さよならより寂しくないだろ」

「じゃあ、……またいつか。」

などの会話を早朝にひそりとふたり重ねたのが永遠の別れになるの、とにかく悲しくて。当時はまる覚えしてたのにいま全然思い出せなくてショック。すぐ書かなきゃだめですね。ここのふたり、リツカの能天気発言にキレるヤマトを空気を読んで宥めて追い出してからリツカを静かに嗜めるイクミとか、とにかく関係性がズブズブに深くて、ヤマトが外に出ることもイクミだけ先に聞かされてる演技してたのとか刺さりすぎた。ヤマトを見送ったあとの「おれもすぐ行くよ」というイクミの独白の重さよ……。

  好きなシーンは、めちゃくちゃ細かいんですが、キレて出ていったヤマトのフォローをするカルナくんが、「悪気があって言ったわけじゃない」といいかけて「ヤマトは悪気が…………あって、言った」と口にする直前イクミと目を合わせるところ。カルナくん、演じる原野さんの人柄と役作りが相まってどこまでも残酷なまでに優しすぎる人で、ラストまでその優しさが尾を引くので大好きでした。カルナくんのこと書くと感情と文章量が重くなる。

  舞台の上には動かせる扉と椅子になる直方体ふたつ、一段下がった縁側みたいな縁取りがぐるっと回っただけのシンプルな構成で、外にも中にも変幻自在で、やっぱり小劇場って面白い。

  正直個別に記事書いたほうがよかったんだろうけどばたばたしてて逃してしまってこうなっています。ほっといたらこれだけで1万字余裕だと思うのでこの辺にしておきます。触れられてないんだけどもちろん山沖さんもいつ見てもよかった。日替わりやサイレントの面白さと、シリアスシーンの切なさとを劇的に同居させられる人。樋口さん久野木くん、俳優さんの歳はさほどメインキャラの役者と変わらないのに「大人」を演じていて、ふたりとも信念と哀しさがあって、ギャグパートで朗らかなのもあいまって、怖くて切なかった。

  このシリーズの常だけど、きちんと序盤の何気ないセリフが起承転結の転結あたりで回収されてたのが気持ちよくて。生きてりゃまた会えるよって言ったイクミが死んでしまうので会えないイクミとヤマト、死の宣告はしたくない・されたくない派だった高峰さんを後ろから撃つ英さん。無駄のない至極の1時間。最高。

 

3月

(省略)

  二つ現場に行きました。村に通うと毎年雪に降られる。

 

7月

 

ミュージカル 憂国のモリアーティ Op.2 −大英帝国の醜聞−

天王洲銀河劇場

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  無事帰ってきてくれた、おれたちのモリミュ。希望の光。

  自粛ラッシュ明け一発目にあまりにもふさわしかった。第一幕はじめのお馴染みのM1『憂国のモリアーティ』を聴いて、ちょっと泣きました。

  前作で富士山並みに上がりすぎたハードルをものともせず、きれいなフォームで飛び越えてきたなという印象です。舞台背景がメサイア悠久ノ刻を彷彿とさせる大きなU字型で、そうかここ銀劇か、とちょっと不思議なきもちでイッケーさんと井澤さんを見つめました。

  前作と同じく2幕構成、2幕のほうでサブタイトルが回収されますが、1幕もまったく不要でなく、ほんと見るたびに思うけどネルケプランニングってやればできるんですよね。

  高音の化け物魔術師こと鈴木勝吾さん、今回も女優並みのピッチ叩き出してきて笑顔になってしまった。「♩Catch me, if you can」「♩悪魔よ 地上から去れ」あたりめちゃくちゃ楽しく観ていました。今回なぜか一番頭から離れなかったのは「♩はい、今日のダラムは雨でしたから」。そんな高音ビブラートで天気の話することある??

  余談ですが、悪魔よ〜のところを声出しでよく歌っていた鈴木勝吾さん、一生そこばっかりものすごい声量でなさってるので、楽屋の皆さんに毎日エクソシストきた」「悪魔去ったよ!!!!」「もういねーよ!!!!」とブーイングされまくっていた話が好きでした。

  第一幕、まさかの10回「兄さん」と歌い、シャーロックが兄を「リアム」とファーストネームで読んだだけで殺意を芽生えさせ、おたくを震撼させたルイス・ジェームズ・モリアーティさんですが、今回結構モラン大佐との共闘が多くて個人的に嬉しかったな。あのふたりのばらばらなちぐはぐさと共闘がいい感じにマッチしていて、それぞれが戦っているときは片方がソロを歌っている構成、目が足りなくて困るほど。汽車で、フレッドも加えて3人でシャーロック見つめながら「「「やはり殺すか」」」って歌うシーンもよかった。子供狩りをしている貴族を刺して焚き火にくべるところの「♩ご自身で選んでください 炎か 死か」のビブラート、たまらなく好きでした。昨年の功績(しもてでメガネを外すシーンで一斉に客席のオペグラが上がる現象)を鑑みてか、今回割と序盤からメガネ外しての殺陣があっておたくとしてはよかった。本人も制作も絶対売りにしてる。

  ウィリアムや犯罪卿と接触できず精神が不安定なところの平野良さん演じるシャーロック、めちゃめちゃ怖い。ギリギリのところを狂人に倒れ込んでいないだけの人という印象。平野良さんは降霊タイプではなくキムタクタイプの演者だろうけど、こういう天才と紙一重のキャラクターをやらせたら天下一品だと思う。

  そこに立ち向かう鎌苅健太さんのワトソン、この作品のメインキャラでただひとり光!という感じで毎回眩しくてぐっとくるしそのままでいてほしい。メインに絞らなければミスハドソンやレストレードも光ですが。けんけんさん、お茶目な曲調までこなす綺麗な高音が素敵。おめめがおおきい。

  第二幕がメインとなりますが、今公演のゲストキャラクター大湖せしるさん、顔も綺麗で低音も高音もうまくて響いてさすがは宝塚。2.5でよく拝見する方ですが、現役時代男役も娘役もご経験があるのは今回初めて知りました。さすがの存在感。宝塚ご出身の方をメインに据えても食われない鈴木勝吾さん平野良さんの存在感とスキルも立派でした。

  ただ七木奏音さんがあまりにも細くてかわいいので、ミスハドソンが買ったけどサイズで着られなかったドレスを小さな嫌がらせとしてアイリーンに渡したのにしれっと着られて地団駄踏む曲、シンプルに脳がバグりました。わからん。七木奏音さん本当にお歌上手いお顔小さい可愛い。

  舞台として、脚本の妙もそうなんですが、そもそもこれ絶対原作が面白いですよね。アイリーンが結局ウィリアムたち側について、ウィリアムたちからジェームズの名をもらい、絆の意味のボンドをつけてジェームズ・ボンドと名乗る流れ、まさかすぎるし滑らかで呆気に取られるしかなかった。心の中で膝叩いたもんね。

  個人的には、一瞬だけ出没するフレッド役赤澤遼太郎さんの女装メイドで、喋った瞬間に、アンサンブルさんじゃなくフレッドやんけ!!!とばかりにオペグラが上がりまくってたのが面白かったです。

  スタンディングオベーションを見下ろした鈴木勝吾さんの東京楽ご挨拶「僕たちはここに立っていていいんだと思えた」、涙を堪えてるから怒ってるような顔で静かに静かに紡がれて泣いてしまいました。

 

8月

 

nostalgic wonderland 2020

恵比寿ザ・ガーデンホール

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  ありがとうSUI先行。リメンバーヤタアンドタワ。

  昨年の開幕に行って大変満足して帰ってきたのすわんがさらに最高のキャストになって2020開催と相成ったため立て込みまくっているなか無理やり行ってきました。恵比寿ザ・ガーデンホール、なぜいつもあんなに風が強いんてしょうか。

  稽古期間の短さもあり、コロナのこともあり、曲のラインナップ自体は2019とあまり変わりませんでしたが、歌う組み合わせが変わってたりソロメドレーとグループナンバーが前後半互い違いになってたりして凝っててよかったな。個人的に好きな曲であるNight and dayをめちゃ美しいド低音から多和田くんが歌っていたのが嬉しかったです。

  海太くん、本当に楽しそうに歌って踊っている上にスキルがとんでもなくハイレベルで、感想とかも次元が違っててこれがニューヨーク武者修行に行った男か〜ってなってしまいました。リズムの取り方とかが玄人のそれ。

  開始早々の全員曲でしもてかみてが交差するとこ、すり足ぽいステップで矢田さんがつっかかりそうになって、ちょうどかみて側で矢田さんの真正面にいた多和田くんが笑い堪えようとしてて失敗してて、矢田さんもやったわーーって顔で笑っててめちゃくちゃウケたし泣きそうになってしまいました。おそらくだけど、たしかソロメドレーのパートで最初から最後までバックダンサーが出なかったのって矢田さんと多和田くんだけだった気がする。歌がエモーショナルでうまい。間違ってたらすみません。

  そんな矢田悠祐さん、今年も最年長メンバーでしたが、「最年長29歳!フレッシュフレッシュ矢田悠祐です!」と自己紹介されててなんかだいぶ吹っ切っていた。七代目の年齢聞くとなんかこう……現実を感じますよね……。三浦くんたちの若いファンの子たちに矢田さんビジュアル歌ダンスめちゃくちゃ褒められててニコニコしながら帰宅できました。

  新曲としてはとっつきやすいアップタウンガールが入ってたのが嬉しかったし、コパカバーナの導入など、2019年よりノリやすかったように感じました。わたしがグリー系に精通していなさすぎるだけかも。すみません。コパカバーナといえば智辯和歌山の野球応援をゴリ押しするいくみんが強くて笑った。小波津くん、お歌もうまくてあんなごりごりに強いうつくしいお顔なのに、オーバーサイズでTシャツ着てるみなさんに引きずられずジャストサイズのやつ着てたの好青年すぎて刺さった。筋肉。

  内海啓貴くん、フリートークあんなに回せる人なんですね。知らなかった。テニス以降だと朗読劇や小劇場でたまに見ては顔ちっっっさ!!って思ってたんだけど、歌も上手だし、推してたら相当楽しそう。

  今回のメンバー、個人的にめちゃくちゃ楽しかったので、また来年か再来年、今度は満席で見られますように。

 

舞台 炎炎ノ消防隊

KT Zepp Yokohama

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  チケ取り手伝いついでに行ってきました。全先行終わった後に全部払い戻しからのチケ取り直しになっていて側から見てもだいぶ大変そうでした。横浜っちゃ横浜なんですが、周りに本当になにもなくて笑った。ビル群。

  最近2.5をなにも履修せず行くことに躊躇いがないのですが、わかりやすく纏まった脚本でそこは手放しで評価できました。テレビシリーズ1期を2時間半で駆け抜けてる。なるせゆうせいさんやればできるんだよね。なぜティラステはああなるのでしょうか。演出は金のかかったダークネスヒールズだった。久保田唱さんだったので。そういえばメンツもなるせオキニだな……

  私的イチオシは連れて行ってくれた友人の推しが所属する第一特殊消防隊でしたが、主人公擁する第八もあれだけ人数いてもイラっとくるキャラクターがいなくて、原作も役者もバランス感覚がいい。第八だと火縄さんにお熱でした。ばばりょさん、相変わらず顔が小さいし眼鏡が似合いすぎてる。桜備さんとのコンビが、原作を読んだ今でもあまりにうつくしすぎて、ずっとそのままでいてほしい。別の友達は、バーンズ大隊長の声がよすぎて何故かエコーかかってるように聞こえると言い出しずっと楽しそうでした。「○年も前のことなんて、覚えていないな……」が地味に流行りました

  身内大絶賛は小南光司さんに女を殴る蹴るするタイプのクズがあてがわれたことで、みんな小南くんのクズ役に期待しすぎ。完全に去年のモリミュの弊害。いやでも本当にハマり役だった。顔がよくて手脚が長くて女の子をボコボコにすることに躊躇いが1mmもなくて。調べたら原作あんな身長高くないらしくて、殉職するとは言え小南ブーストがすごい。パンフレットの構図がめちゃくちゃネタバレでウケました。

  暴君(笑)君沢さんになにを振られても尺を考えて応えられる主演のまきちゃんと久々のおざれんさん、売れてる人はしっかりしてるなーって感じでよかったです。「俺は騎士型の○○じゃない」ってやつ一瞬日替わりになってたと聞いてウケました。貪欲。

  冒頭カリムフラムさんの「昔の過去のことは」という台詞で、オッ頭痛が痛いな!ヤバ脚本か??と思ったらただ単にそういう喋りかたのキャラクターでシンプルに濡れ衣だった(小劇場に通ってるとこの手のヤバい言い回しをする脚本に少なからず当たるしだいたい本当につまらない)。すみません。

  一個不満としては安里くん演じるフォイエンさんが最後のほうで校條くん演じるカリムさんを上空の攻撃から庇うんですが、そこで「フォイエン、お前腕が」くらいのセリフを入れて欲しかったです。通っててわたしたち身内を日替わりで呼んでたダチ、終わってからみんなに「実はあそこでフォイエンさんは右腕を失っている」と説明するのが毎日の楽しみになってた。いや友達の楽しみがあったのはいいけどあそこ右腕失われてるとわかりづらいの結構ダメだと思う。なるせ脚本、なぜかフォイエンさんの出番とセリフがめちゃ増えてたのにそこだけ迂闊と言える気がしてしまいました。

  楽しかったため原作も結局履修してなかなかハッピーな8月でした。また感想思い出したら随時書き足します。

 

  そんなわけで気づいたら1万3千字を超えていました。悲しいことも多いけど、観客席が半分になっても現場は変わらず楽しいしたくさんの幸せを腕いっぱいかかえて帰ってくる感じはなにも変わっていません。

  現在今年一番力を入れてる現場に通っていますが更新できるか謎なのでとりあえずこちらで一区切りとします。

  読んでくださった方がいらしたら、ありがとうございました。