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映画 宇田川町で待っててよ。感想

宇田川町で待っててよ。(150806.17:40~)

出演:黒羽麻璃央、横田龍儀、ほか(敬称略)
原作は秀良子先生作のOnBlue連載漫画(完結済)。渋谷シアターHUMAXで7月25日から上映開始。
 
 

■東京での上映期間が終了したのでネタバレを含みます。

 

 まず予告動画を見たときから思っていたのですが、この映画、劇中音楽がめっちゃくちゃ好み!

映画『宇田川町で待っててよ。』予告編 - YouTube

 まりおさん演じる百瀬のモノローグの後、映画タイトルが真ん中にスッと出てくるところの曲の軽やかさ!音楽には全く明るくないのですが、カテコでキャストが小走りに出てきてお辞儀をするのが似合いそうな曲調で、いやまったくのわたしの趣味ですが。

 公式HPを見たら、音楽は遠藤浩二さんという三池監督作品などにも多く携わっておられる方で、ハンチョウなどたくさんの映画ドラマその他いろいろな楽曲提供作品をお持ちでした…宇田川サウンドトラックが切実にほしい。

 音楽といえば、冒頭、百瀬がヘッドホンをしているあいだの爆音と、女装した八代を見つけてそれを外した時のくもった音との差にとてもときめきました。よくある演出方法なのかそうでないのかわかりませんが、いつもあの音楽のなかで生きていた百瀬が恋に落ちて初めて外界に触れた瞬間ということが解りやすかったように思います。ヘッドホンを外したことで今まで気にならなかったことが気になっていく百瀬にとって音楽は自分の中で生きる手段であり壁でもあったのかなと思いました。

 

 わたしは原作者である秀良子先生のかかれるモノローグが本当に好きで、この作品も例外ではなく、実写映画化が決まりキャストが発表されてまず期待したのが、まりおさんがよみあげるであろう言葉たちでした。予告動画で最初の「骨ばった肩で 男だと気づいた/顔を見て/八代(クラスメイト)だと 気づいた」を語る声が百瀬として想定していたよりも高かったため驚きはしましたが、噛みしめるような読み上げ方だなあと感じて期待が膨らみました。

 だからこそ本編で百瀬が八代をどんな人物か語ることばが省略されてしまっていたのは個人的にはかなり悲しかったです。

「八代は クラスでいちばん 派手なグループに いて/その中でも 特別目立つ わけでなく/そこそこに 勉強ができて/いつも 日なたを 歩いている」「意識して 見てみると/八代は 地味だけど ていねいな顔だちを している」だいたいこのへん。

 まりおさんは平仮名を上手に発音してくれる俳優さんだと思うので楽しみにしていたぶん悲しさが募りました…!

 しかもこのあたりのシーンにうつる八代って"百瀬が見ている八代"なわけで、百瀬がいわゆる陰キャラなのでリア充の八代は眩しめの存在に見えているはずなんですよね。スクールカーストフィルタもあいまってきらきら輝いている。陽のイメージだから、百瀬は無意識に八代の学校生活のなかのいい表情ばかり切り取ってる。だからやっぱりあのあたりのカットはしょんぼりポイントでした。いや映画ですしなんでもかんでも説明しちゃダメなんでしょうけど…

 もともとの顔は可愛いわけではない「地味だけどていねいな顔だち」の女装している八代に、呪縛のような「可愛い」の魔法をかけつづけるのが百瀬の役割だし、だからこそ八代は恋に落ちかけるわけで、たとえりゅうぎくんが可愛い顔をした黒目が大きい男の子だとしてもその大前提の明示が欲しかったな〜とワガママなことを思いました。

 モノローグ、吹き出しの中も含めて他にもかなり削られていて、原作を読んでいないお客さんに伝わったのかな〜と勝手に心配に…。岡女のプリーツのくだりとか、八代が"可愛いもの"として定義付けて表現するところだったし、女装をする前提として「服が可愛いから」という意識があることがわかる場面だったんじゃないかな〜!いややっぱりなんでもかんでも説明するんじゃなくそこは察するべきところなのかもしれないんですけど。

 観終えてからもしばらく考えていましたが、イケメンが演じていても平凡な学生であったり、アイドルが演じていても地味メガネ女子であったりすることを求められる映画やドラマは多いと思いますし、だいたいにおいてそのルールはその世界のなかで事前に説明されるので、やっぱり枠組みは大切だったのではないかと感じました。

 

 序盤の授業の最中、百瀬の視界の中で、落とし忘れた小指のマニキュアに気づいた八代がその小指を握りこむところがあるんですが、映画ではそこが体育の授業だったかな、外での描写になっていました。太陽光が当たりやすいからということだったのかな?

 そういえばそもそも原作で百瀬から見て右ななめ前のほうに座っている八代が映画では左斜め前に座っているので、自然光がはいるよう窓が南にあることがおおい校舎において、どちらの手の指にせよ、光があたってきらめくマニキュアには確かに気づきづらい。

 原作では右前方に座る八代の泣きぼくろが百瀬から見えているのですが、作中にほくろに関するエピソードは特にないのでりゅうぎくんにほくろは描かれていませんし、左前方になっても問題はなさそうですけどどうして変わったのかなと。映画とかそういう映像とかの勉強いちどもしたことないんですけど、したらなにか意図とか視覚効果とか、わかったりするのでしょうか。

 でもたしかに、窓を背景に逆光で笑っている八代は綺麗に見えました。

 

 窓を背景にと書きましたが、この映画で一番気になってしまったのが、別に窓に一番近い列に座っているわけではなさそうな八代の背景に他の生徒が映らないほどのクラス人数でした。受験期か?ってぐらいに人がいない。そもそもの机の数が教室の大きさに対して少なめであったのに、それが埋まっていない。授業中ずっとスカスカでした。確か劇中で扱われていた授業は数学と英語だったと記憶しているので、習熟度別少人数制授業だと考えれば納得できないこともないんですけどそれにしたって…!

 体育の着替えシーンも人が少なかった。誰のだよその空席の横にかかってるリュック!

 エキストラとくくってもいいぐらい喋らなかったり笑うだけだったりのクラスメイトを俳優さんから集めるのは恐らく予算などからして大変なのだろうと思いますが、さすがに気になりました。

 

 八代の化粧の微妙さもなんだか気になりましたが、あれはもとが可愛い顔のりゅうぎくんを完璧に女にさせないようにという意図があったのかな。チークの位置とかウィッグのチョイス次第でぜったいにもっと可愛く、or綺麗になれるとは思うんですけど、そこは男としてのゴツさを残す演出ということだったのだろうと思っています。

 

 さてここまでうだうだ書いてまいりましたが、映画を観た感想で言うと、全体的にテンポがだれず、とてもよかった。ギャグではないにしろ百瀬のストーカー気質に怯える八代に自然と共感できる流れになっていたのが笑えてきゅんとできてよかったのかなと。

 

 ほんっっとうにまりおさんの百瀬が何を考えているのかわからなくて、八代の「お前こええよー!」に全力で頷けました。がんばれまけるな八代くん。八代の手を引く最初のキービジュアルでは、相当可愛かったし相当本来のキラキラ男子っぷりを発揮していたように思います。髪も長くないし制服もいい感じに着こなしているし、あの感じから本編の陰キャラ感を出せるようになったのはすごい。

 「キスしていい!?」は可愛さ満点すぎてお前誰だと思いましたが、かなり序盤で撮影したとトークショーでおっしゃっていたので仕方ないかな〜と感じました。"思い込み激しいヤバいやつ"が段々と素直であるだけなのだと八代に伝わっていく過程が素敵でした。

 マイベスト百瀬は「てめーの百億倍可愛いわ!」。お前が可愛いわ!!!って感じでしたけど、あれはあれで映画の百瀬として、可愛い必死さが見られたシーンだったと思います。 あとクライマックスの可愛いを連呼するところもよかった。キラキラ男子の本領発揮、可愛いを言い慣れててくれてありがとうというか…でもチャラついていたわけではなく、大事に大事に八代に伝えようとしてくれていたので。

 

 りゅうぎくんの八代は、原作のキラキラ八代ではない感じもしましたし、遊んでいるはずなのにモブ女子が全く出てこないせいでウブ感が否めずとても可愛かったなと思います。だからこそ中盤の部屋のシーン、ただの格闘技みたいになっててちょっと笑いました。濡れ場とは…?

 演技そのものは、BF会議という夢女子向け?の謎番組で深夜にちらっとみた以来なのでほぼ初めてでしたが、彼は声が低いんですよね。黒目とかまつげとか顔の輪郭のやわらかさだとかが、八代としては可愛すぎなんですけど、声のざらつきと低さがいい感じにそれを緩和していました。とくにクラスメイトと女子の好きな体の部位とか喋ってるところの男の子感が、八代だ〜!という実感をもたせてくれました。いち視聴者としての感想ですが、まりおさん同様にめちゃくちゃ演技は気になるところたくさんあるんですけど、やっぱり八代に正面切って向かってくれていた気がして、最初から最後まで、わかるよ!百瀬やばいよな!わかる!という気持ちで観ることができました。「なんなのおまえ〜!?」の表情がめちゃくちゃ八代だった…!

 個人的になんだこれと思ったのはまつげの長さ。最後にメイクするシーンがありますが、マスカラをつけるまつげがアップになったときの、マスカラいらなくないか感がすごかったです。それから、渋谷のひとたちの服装や、雨の中息が白くなっているところを見るに、相当寒い撮影だったのではないかと思いますが、女装衣装に春秋物のワンピやチュニックなどが多く、頑張ったんだなと感じました。

 とにかく「可愛い」の魔力を自覚した後の可愛い八代がさいこうで、りゅうぎくんは素敵な役者さんになるんだろうなと思いました。

 

 

 わたしはごく普通にそこらへんにいる面倒臭い原作厨おたくなので、いままで好きなものの実写映像化作品を「原作ファンとしてここがきになる、でもこういうところはいいな」だとか、俳優さんの演技を粗探しせずポジティブに観ていくだとか、そういったプラス思考で観てみようとしたことがありませんでした。今回まりおさんが主演でなければ観に行かなかったかもしれないことを含めて勝手に反省しきりです。 トークショーはチケットを買ってから決まったので本当にたまたまでしたし、可愛くて素敵な2人も拝見できたので、観に行ってよかったです。役者さんの真摯さを感じることができた映画だったと思います。

 

 そしてとにかく、サントラがほしい映画でした。

 地方上映が成功するように祈ります。