スケート靴を脱ぐまえに

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走馬灯には映らないエゴ 〜 ムシラセ「つやつやのやつ/ファンファンファンファーレ」感想

これを書き上げないとスピンオフ以外配信を見てはいけない制約を課したためざっくりで失礼しています

 

『つやつやのやつ/ファンファンファンファーレ』

@下北沢駅前劇場

2023.07.13〜07.18

 

初演とわたし

 ハルくんの走馬灯に、チカちゃんは映っただろうか。

 初演のすぐあと、書かずに終わってしまったはてなブログの下書きに書いてあった、たった一文を、2023年版の今回も観終わってからふと思い返した。

 2021年末に出逢ったつやファン初演は、なんかコロナ禍のゴタゴタに端を発するよくわからん経緯でうっすら仲良くなった人が連れていってくれた公演で、そりゃあもうダバダバ泣いてしまった。わたし自身が、推しの動員確保の招待でもなければ人を舞台に誘うことにひどく及び腰になっていたこともあり、本当に響くのか半信半疑であったのも事実。そのくらいの感じで、なんならその知人の顔の広さに爆笑などしながら入ったものだから、劇場を出て開口一番「悔しーーーー!!!!」と割とデカめの声をあげてしまい慌てて黙ったのをよく覚えている。わかる人にはわかる劇場だったもんで。

 悔しかった、ほんとうに。あまりにもおもしろくて、あまりにも刺さりすぎて。

 仕事の関係で一度しか入れなくてその後脚本の販売が決まって、その知人に頼んで代行してもらった。ここまで書いて思ったけど、たぶん、友人と呼べる人なんだと思う。わかんないけど。

 その時も配信が決まってすごくすごく嬉しかったし、謎の負けん気で貰い事故ダチを増やしたかったから、推し方がチカちゃんに似てると思った友人の家に酒と生ハムを持ち込んで、有無を言わせず観てもらった。推し方もそうだけど、絶対楽しんでもらえると確信したのは、小劇場の面白さをわたしなんかよりずっと先に知っていた子だから。いたく楽しんでくれたうえ、そのあとあまりにも刺さったらしく自分でも買い直してまた観ていた。ガッツポーズしてたけどわたしが狙ったのとぜんぜん違うところが刺さったらしい。おたくってそういうことばかりだけど、きっと向こうもそこがよくて友達でいてくれてるんだろうと思う。

 

※感想を書くんですが観た人向けの曖昧さなのにネタバレに配慮ありません

フィクションの説得力のためのリアリティ

 某芥川賞受賞推し消費系作品にも言えるように、消費される側のひとたちがいわゆる「推し活」を描くのって、リアリティにとてつもないリスクを背負うと思っている。某作品は人によってかなり評価がわかれるとは思うんだけど、なんか惜しいよねと言わざるを得ないところが多い。本題じゃないし置いておきますけど。

 つやファンは、2021年から2023年への変遷で、まずチカちゃんの服に尋常じゃないリアリティが書き足されている。これ自分がたまたま着たことがある服だったからってだけなんだけど、2021年のチカちゃんはINGNIの両裾がレースアップになったグレーの大きめチェックのモハモハしたミニスカを履いていた。あれは少なくともTO(トップオタク)が着ているような服ではない。ギリで芋ガッツ。てか2017年ごろの芋オタクのスカートである。ふつうに過去のわたしへの悪口なんだけどね。

 たいして2023年版は(ここまで再演と書いていないのは、結構ちゃんと加筆修正があったからです)地雷系量産のお手本みたいな服で現れる。地雷までいかないけど量産の白ピンクではなく黒ピンク。サンリオでなくたべっ子どうぶつ。あの冒頭の数分のシーンのためだけにと考えると解像度がとんでもないが、逆にいうとこの1年半はしまむらも夢展望もSHEINもアリエクもGRLもそれだけの進化を遂げたということなんだろう。どうでも良すぎてごめん。

 おたくの激安おたく服メーカー眺望は置いておくとしても、解像度ボケボケなら「尊い〜!」とかいうもう誰も使ってないスラングに落ち着きそうなところを「ホスピタリティやばない?」で纏めるセンス。文字打ちがフォロワーみたいでもはや怖い。入り待ちってほんとに駅とかで5時間前に待ちますからね、スタッフさんの時間なんだよってツッコミでぎゃくに全然笑えなかった。保坂さん、何者?

 リアリティで一生書けるけど、配信で観た土橋さん演じる前アナ担当のサツキ含めたチカゆかりサツキのトリオ、あまりにもおたく語彙の“身内”としての見た目の解像度が8K。自宅リビングに置く程度なら4Kと8Kってあまり違いが視認できなくてあんまり意味がないらしいんですけど真面目にそういう感じ、いや褒めてます。おたくが3人集まると洋服に統一感がなさすぎてTHE ALFEEになるという通説はあまりにも有名ですが、それなんですよ、そのものなの。誰がタカミー枠か小競り合いになるもんね、まあこの場合満場一致でゆかりでしょうけど。サツキちゃんの髪型とか喋り方含めたいでたち見て大喜びしたのおたくしたことある女だけだと思う。

 わたしは芸人さんのおたくを真剣にしたことがなくて、『つやつやのやつ』の方のリアリティは“阿久井くんみたいなクズ演者”とちあきにしかアンテナが反応しないんですけど、ちあきがっていうか“ちあきに仮託されたおたく”の発言に、舐めた演者応援した経験のあるおたくがスタオべしちゃうだろうが!!!!っていう切れ味が楽しめてよかった。これを書いてる保坂さんが、(言い方が最低なのはわかっていますが)金もらって興行打ってるって自覚と矜持があるのもひしひしと伝わってきてサイコー。あのシーンみんな大好きだと思う。

 

2021年と2023年の誤差と雑感

 誤差って書いたのは、間違いなくブラッシュアップだけどキャスト変更から生じたであろう偶然の変更もある上に、どっちも思い入れがあって好きだなっていうめんどくさい葛藤によるものです。

 ゆかり、ちょっとアホな感じに振り切ってて、よりポジティブで、わたしは初演のゆかちゃんに恋しすぎてたけど、その感情をこじらせずにすんでよかったなっておもった。お洋服が急に万人受けしそうな感じなのとなんかあまりにも手持ちと似ててびっくりした(友達「チカの『スッケスケじゃん!』であんたじゃん!!ってなってた」)けど、そこに優しさすら伝わるのがじんわりわかって。ラストの暗転前、辻くんがラヴィット出たり徹子の部屋出たり自由で良すぎたし、ああいうの大好きすぎて大声で笑っちゃった。軒並み阿久井くん出ないのもセンス良すぎて満点。てかゆかりもサツキも辻くんのおたくなんだな、ほんとにモテてなくてウケる。

 キャスト変更のことをさらりと書いたけど、2021年志乃ちゃんの谷川さんがすごく印象深くて、あさみんの中野さんの澄みきった声に押し負けないあのお声が刺さりすぎてたから、多分初日見るまでめちゃくちゃ引きずりゾンビだったんですよ。そこに2023年版元水さんのあの「もう好きを知らなかった頃には戻れないんだよ」でぜんぜん真っ向から涙腺ぶち抜かれて良すぎた。志乃ちゃんとあさみん、どうしてああも高校生然としすぎている佇まいなんだろう。

 一番笑ったのは、登場から「ハンサムの方って紹介されるの合ってるんかな……」とルッキズム支配のド失礼なことを考えていた山ちゃん。ちゃんと冷麺の方になってたのと、若くて小綺麗な元芸人より生々しくて面白くなってたと思う。まあ出待ちにキレるところは嫌いなおじさんスタッフに似すぎててウワーーーーーーになったんですけど……すごいあのリアリティ……志乃ちゃんへのツッコミのテンポと口調が巧すぎて、知ってるのに笑ってしまうのが悔しかった。

 堂夏師匠、初演の穏やかな大師匠感が大好きすぎて2023年版はもうあからさまにテレビの中のちいせえ毒舌おじいちゃんなのが怖くて怯えてたけど、それだけにウィスパーとの追加エピソードがめっちゃくちゃに愛せてよかった、あの愛嬌を脚本演出で引き出すのはシンプルにすごい。初演ではどうぶつの森みたいな話し方してたからこそ喋った時の客席のリアクションが2023より大きかったし可愛いに全振りしてたウィスパーを、まあ喋るだろうとは思わせつつも「こわっ」でしぬほど笑わせてくれてそう言えばちゃんとおじさんだったと気づかせてくれる今回の演出、脚本プラスアルファのセリフが多くて面白さの中に悲哀が敷かれてて味わい深くて。説教のシーンの嫌味ない説得力って普通のおじさんがやってもこちらは白けるだけみたいなこと多いから、バランス感覚が最強だった。

 ちあきの毒舌で一生酒飲めるけど、多分いちばん焼き直しされてるのってあそこですよね。「無理だよ私にはそんな高尚な仕事」(初演脚本が実家にあるためうろ覚えです)が、男社会で生きる女芸人の話になってる。好きなものを消費するだけじゃなくてなりたいかどうか、ここでも問いがあるのが多分2023年版と違う最大の点だと思う。わたしも、テニミュにもドデカ2.5にも小劇場にも携わりたいと思ったことがない。その諦念は、「無理だよそんな高尚な仕事」と安定していそうな昼職から苦笑するちあきのようでも、食いっぱぐれに怯えて冷たい目で突き放すあさみんのようでもあって、ときに自己嫌悪まで連れてゆく。好きなことで食べていこうとする人に惹かれるのって、自分が臆病で怠惰だとどこかで気づいてしまったからなんだろう。でも誰だって、好きな人にはぜったいなれないのだ。

 

あなたを笑わせたいということ

 何を隠そう、初演でいちばん泣いたのは(配信含めて)間違いなく「会いたいだけなのに。もう一回会えるなら、なんにも要らない」だったことはよく覚えている。これを“消費を生み出す側”の保坂さんが書いておられるのが素直に凄まじすぎて怖い。2020年から2021年4月くらいまで、今思えばとんだピエロだけど、推しのいた大好きな事務所が空中離散して、前世から好きだった子もアイドル辞めて新しくできた海外の推しも兵役のくじ引きに当たってシンメ解消して、とにかく散々だったから、推し誰も死んでもないのにずっとズタボロのチカちゃんにシンパシーを感じすぎていた。2023年版初日でいちばん最初に涙がボロボロ落ちたのも、しゃくりあげるのを我慢してたから息ができなくて苦しかったのも、間違いなくそこだった。

 でも、その直後とおかわりでの観劇と配信とで弁解できないほど泣いたのが「ハルくんみたいに笑わせてあげられなくって、ごめん」だったのは覚えておきたいなと思う。

 わたしが、友達の彼氏じゃなくて、推しじゃなくて、ごめんねって思ったこと、けっこうある。まあ、どうしようもないまま話を聴いていて、無力感で押しつぶされそうになる感覚は万人とは言わずとも人口に膾炙した無力感なんだろう。わかっているけれど、一見明るく見えても家族に闇の部分を抱えたゆかりのセリフとして、こちらに迫り来るものがあまりにも痛切で泣けてしまう。書いてて思ったけど泣けるって感想、陳腐すぎてクソだな。語彙が足りない。

 この脚本のいちばん好きなところは、“消費を生み出す側”にいる保坂さんが“推される側”を決して描かないところにある。観てしばらくしてから気づいたんですが、推される側から、血も繋がってない他人を推す変わった人(≒うちら)への感情が一切描かれないんですよね。推している側が勝手に救われているだけなの。これ実は『ファンファンファンファーレ』だけじゃなく『つやつやのやつ』からそうで、ハルくんの通夜で「チカちゃんどうすんだろね」どころか「あのミームの出待ちの子どうしてんだろうね」の会話すらない。当たり前なんだけど、チカちゃんはハルくんが全てなのにハルくんやハルくんの周りからは一介のファンでしかないのだ。さらに言えば、彼らには"おたく"と"ファン"の線引きすら存在しないと思う。

 そしてこの作品には一切描かれないけれど、推すという感情にもべつに永遠なんてない。推される側の走馬灯にも、推す側の走馬灯にも、双方の対象がかならずしもうつっている保証はどこにもない。水を差すようだけど、実家に帰れるようになったチカちゃんは、また新しい「自分のすべて」を見つかるかもしれないのだ。だから、山ちゃんみたいな人だけが覚えている。ハルくんが、ミームが面白かったことを。なんかすげー可愛いけどすげー可愛げのない出待ちに手を焼いたことを。

 

 おたくって、本当に何にも残らない。

 でも多分、だからこそ、なんの見返りもなく時間も金額も考えずに全てを投げ打つことができるんだなと、もう誰のおたくでもなくなったわたしは思ってしまう。些細なことは思い出せなくても、ふと振り返ると"身内"と遅くまで笑ってた現場の日々ってずっと特別で、また明日!って言える志乃ちゃんとあさみんくらい全然永遠じゃなかったのに、永遠に続くと思ってた。好きを知らなかった頃には戻れないから、この先にそれ以上に熱を入れられるものが見つからなくても生きていけるような、羅針盤みたいなゆらめきを求めてわたしは過去を振り返ってるのかもと思わずにいられない。

 

 観たおたくのこと狂わせる舞台ことムシラセ『つやつやのやつ/ファンファンファンファーレ』2023年版、なんとバカみてーな値段でバカみてーな長期間に配信してます。普通2500円なら買ったら1週間観られるのが相場なのに何故か1ヶ月みられるし、定点カメラとかじゃなくちゃんとバストアップも引きも斜めカットもあって意味がわからん。これで大丈夫なのでしょうか。カンフェ配信ってカンフェポイントでしか上乗せできないのも意味不明すぎる、BOOTHを見習えや。

s.confetti-web.com

あっもちろんわたしには一銭も入りません、当たり前だけどね、アフィは一回身構えるからね。わかる。

 

 てか、ぷるタブのつかみが「文字通りビッグマウスの方が」でウケなかった回に入ってたんですけど、これと脚本以外に観測できた方がいたら教えてください。ユカの辻くん翌日生放送情報も共に。

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これは下北の有名カフェのドデカプリン

 

ここまで読んでくださった方がいらしたら、ありがとうございました。